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2000年版


 学童保育所、通称「学童」って知ってます? 小学校に通う子どもを預かってくれる保育園みたいなものです。
 ウチの上の娘も、今、通っています。畑の残る東京郊外。小学校の敷地内にある小さなプレハブと、空き教室を流用した部屋。どちらにもキッチンがあり、指導員の先生が数名ずつついています。1年生から3年生の児童たちが縦割り保育のように入り乱れて、下校から帰宅までの時間を過ごします。
 学童に登所するときは「ただいま」とあいさつします。先生は「お帰りなさい」と迎えます。
 就学前の保育園に、保護者がお迎えに行ったときも「お帰りなさい」と迎えられます。大人には面はゆいものですが、子どもは自然にそういうものと受け止めているようです。
 先日、保護者のオツトメとして「一日指導員」というのを体験してきました。給食と掃除が終わって子どもたちが現れる午後1時半から最終・5時までの3時間半。以下は、その見聞レポートです。


2000.2.29

●覗いてきました“子どもの縄張り”

 子どもたちが、床にのびのびとくつろいで本を読んでいます。机に向かっている子どもたちは、周りに目もくれず、思い思いの雛人形を作っています(圧倒的にポケモンびなが多いですね)。かと思うと、横の友だちと言い合いもします。床に置いたベニヤの上ではコマ回し。見たこともない技を連発します。コチャコチャと口でも競い合いながら糸を巻くけど、イッセーのセ、とコマをぶつけ合うときは無口です。
 小競り合いはあっても、喧嘩にはなりません。
 子どもたちは数人ずつ、1年から3年までがちゃんと混ざるようにグループを作っているようです。壁に、各グループのメンバーと目標が貼ってあります。健気な目標のどれほどが本気かはどうでもいいような気がしました。楽しんで書いているのがわかる。それがうれしい。

●マイペース、つまり、ご自宅気分?

 寒風の中に飛び出して粉ふきイモ状態で一輪車、鬼ごっこ、運梯、タイヤ飛び、そしてドッジボール。彼ら、家に帰ると本当にTVゲームなんかやってるのだろうか。
 屈託がないわけではないはず。でも、妙な遠慮はないみたいです。どうやらゆるやかに規律はあるようす。規律を守らない子には子ども同士でも叱声が飛ぶ。だけど、玄関を閉めるのは、つい忘れる。
 ふつうにふつうに時間が過ぎていきます。

 どうやら「学童」というのは教室でもない、保育園でもない、とじんわりわかってきました。「放牧」とか「地飼い」「放し飼い」なんていう言葉が頭をかすめます。少なくとも囲い込みや調教、束縛なんていうことばは、ここには似合わないようです。
 やっぱり、彼らの「第二の家」なのでしょうか。

 わが娘以外はどれも見知らぬ顔、顔、顔。話しかけようにも話題がない。子どもたちは三々五々、下校してきます。そして、それぞれに好きなように時間を過ごし始めるのです。みんな自然に、しかし集中しています。こちらから割り込むスキはなかなか見あたりません。
 子どもたちはオッチャンという異物に、少し関心はあるけれど、2〜3ことばを交わすと、あとは「日常」へ帰っていってしまいます。オッチャン、よその縄張りに入り込んだ猫みたいに居場所がない。手持ちぶさたに子どもたちや室内を観察するのです。

 「今日のオヤツは“レストラン食べ”をします」
 子どもの世界には耳慣れない言葉がたくさんあります。そういえばわが家にも隠語がいっぱいありそう。大人がわからないのはポケモンの名前だけじゃないんです。
 近く行われる「お友だちを呼ぶ会」の予行練習として、自由な席について、セルフサービスでオヤツを食べる。学童のもうひとつのクラスA組では“自由オヤツ”とか言っていたようです。
 意外に、途中で席を立ったり、悪ふざけをする子は見かけませんでした。食べ終わった子からゴミを捨て、食器を下げて、好きな遊びに戻ります。

●30年ぶり?のドッジボール

 手持ちぶさたなオッチャンをドッジボールに放り込んでくれたのは先生。
 「先生、外、行ってもいい?」と聞いてきた男の子に、「いいわよ」。そして、いいことを思いついた言わんばかりに「そうだ、オジサンにドッジボールしてもらえば?」
 一瞬の間。男の子は決然と
 「する!」
 おいおい、ホントかよ?
 「気をつけてくださいね」の声に送り出されるように、室外へ向かう。後ろから声が追いかけてくる。
 「子どもたち、とっても強いですからね」
 オッチャンの体を案じているのだとわかるのに、少し時間が必要だった。

 冬だというのに、やはり子どもたちは平気で外で遊びます。風が強く、砂ぼこりがヒドい。ドッジボールは、ろくに目が開けていられなくなるほど風が強くなるまで続きました。30分? 1時間? 彼らは強い。本当に強い。私が内野でいた時間は合計2分ほどかな? 本気でやったんですが。
 「入ーれーて!」と後から参加するのはだいたい下の学年の子。3年生らしき男の子が、戦力を見比べてだいたい均衡するように「よし、じゃ、お前はあっち」と仕切ります。仕切っていた子が何かで忙しいときは、別の3年生が仕切ります。
 オッチャンは最初は「戦力大」に分類されていたようですが、終わりには「員数外」だったような……。
 外野になったときは、どこまでも転がるボールを拾いに、広い校庭を走ります。1年生も3年生もオッチャンも。
 拾いにたくさん走るのがいやだから、遠いボールにも飛びつきます。自分が転がったって構いません。
 風に吹かれて、上着が飛んできます。走り回って熱くなった誰かが、脱いだ上着です。オッチャンが手にとってほこりをはたいていると、駆け寄って来て「ありがとうございます!」
 敬語を使う子どもを見たのは久しぶりでした。

●コミュニケーションがヘタなのはどっちだ?

 オヤツをはさんだ後半、男子たちとドッジボールをしてからは、「ポケモン」カルタ、「ポケモン」ポンジャンといっしょに遊んでもらえました。しかし、それまでは室内でも室外でも、話しかけても会話は続かないし、「いっしょに遊ぼう!」とも言い出せず、あまりの手持ちぶさたにA組のまわりのどぶ掃除なんかしてしまいました。

 それにしても、近頃の子どもはコミュニケーションがヘタだ、なんて誰が言ったんでしょう。オッチャンよりは数段マシです。私が学童に顔を出すやいなや、しっかり質問が飛んできました。初顔合わせに戸惑って、うまく言葉が出ないのはこちらの方。
 「オッチャンだれ?」「なにしに来たの?」「仕事、ナニしてるの?」(なんて答えればいいんだ??)返事をうまくできないオッチャンにこそ、問題アリでした。きっと、彼らにわかるように答えなきゃ、なんて思い上がっているのがいかんのですね。
 下校してきてオッチャンを見るなりスネを蹴る子がいました。顔は知らなかったけど、呼ばれる名前から察するに、わが娘の仲良しさんです。後で娘に「なんで××ちゃんは蹴ったのかな」と聞くと「きっと恥ずかしかったんだよ」
 ……よくわからん(;´_`;)
 でも。この学校では京都のような惨劇はきっと起きないに違いない、と苦笑しながら思うのでありました。

 最後に子どもたちの前でご挨拶。
 「いやあ、ドッジボール、うまいねえ」と言ったら「オッチャン、弱いんだよ」だって。

 「一日指導員」というのはナニをすべきモノか。電話で事前に少々聞いても要領を得ないまま、去る冬の日の午後、学童B組で子どもたちと過ごした半日。つまりは「一日保父さん」なんですけどね、やってみるまでわかりませんでした。保父さんがどれだけ大変か、ということも含めて(大変さについては、きっと、今だってわかっちゃいないんですけど)。
 「ま、子どもたちのようすを拝見してくればいいワケだよな。あわよくば交流なんかしちゃおうかな」なんて思っていたのですが……甘かったです。

 翌日から数日間は筋肉痛に見舞われました。俊敏な小猿たちとのドッジボールの後遺症です。いや彼らは元気だ。


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