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99年版


1999.2.23

●個人が個人を支援するシステム「投げ銭」

ボクはあまり、というより、かなり品のないネットワーカーだけど、それでもネットワーク上で受けているさまざまな恩恵に思いを致すことがある。
下に引用したのは、先日、ある雑誌のインターネット入門記事用に書いたカコミの一部なのだけど、紙幅の関係で使われない(と思う)ので、ちょこっとのっけてしまおう。個人が作ったオンラインソフトについてだ。どこかで読んだような話かもしれないけど、許して欲しい。

ソフト作家にEメールを出そう
 個人の作ったソフトは、フリーウェアであれシェアウェアであれ、それを使って喜んでくれている人がいるという事実がソフト作家たちの励みになっている。使ってみて気に入ったら、必ずユーザー登録をして料金を払い、ぜひお礼のEメールを出そう。
 使ってみて具合の悪いところがあったら、それを報告しよう。実際に使っている人がいる、と実感できるのも彼らには嬉しいことだ。次のバージョンでその不具合がなおっていたら、それはあなたが知らせたためかもしれない。
 でも、一人ずつのメールに返事を期待しちゃイケない。彼らにはメールが山ほど届いているハズだし、それに返事を出すことで忙殺されては本末転倒だからね。
 彼らがソフトを作り続けてくれるから、私たちみんなのパソコンライフがどんどん便利になるのだ。みんなで支え合わなくちゃね。
 インターネットではすべての情報が原則としてフリーで提供されている。これは、インターネットがこうした「シェアし合う(共有する)」ということを前提につくられているからだ。そして、そうこれが「インターネットは双方向」と言われる由縁でもある。

正直な話、ボク自身はここに書いたようにお行儀よくはないのだけれど、こんな風だったらいいな、とは思っている。「共有する」っていうのがネットワークの本質だと思っているのだ。これは、有意の個人(や団体)を有意の個人(や団体)が自発的に支援することで支えられるシステムということだ。ただ、支援の形はお金に限らない、というわけだ。
でも、なぜお金に限らないのだろうか。楽しみや役に立つものにお金を払うのは、ちっとも失礼なことではない。フリーウエアだと明記されていても、「ささやかな心付けぐらいならしたいな」と思うことだってあるのだけど。
これはやっぱり「少額のお金を払ったり受け取ったりするのが、額面にふさわしくないほど煩わしい労力を要する」からだ。ソフトウェアの場合、現在ではkagi systemなどのWeb上でできる決済システムが広がってはいる。しかし、それでも街頭のスタンドでお金と引き替えに雑誌を手にするときのような簡単さにはほど遠い。

なにか歯がゆく思っている人は、きっとボクだけではないだろう。

その一方で、「Webを代価を得られる出版の場にすることはできないか」「部数などの問題からコストが合わずに既存の出版に乗せられないようなもの[]も、ネットを使えばなんとか販売できるのではないか」という思いもある。だって、ソフトウェアにはそういうものがあるのだもの。
だけど、ソフトウェアと違って書物のようなテキストには、こうした方法はまだまだ市民権を得ていない。
コンピュータ・ネットワークが市民権を得ていないということだろうか? それともパソコンのディスプレイ上や、自分でプリントアウトして文字を読むという行為が受け入れられていないのだろうか? どちらの要素も、少しはあると思うのだけれども、でも、すでにかなりの人がメールニュースを読み、Webサイトを読んでいるではないか? 単行本一冊分のボリュームを誇る「Outdoor Basic Technic」サイトの内田氏のところには、サイト全文をプリントアウトして読んでいるという人からのメールも少なくないという。ということは……(・_・?)
書き手はいる。読み手もすでにいる。成熟した課金システム「だけが」足りないのだ。
成熟したというのは「安全」「確実」「簡便」の三拍子が揃ったシステムということだ。
ボクは個人的にはネット上でのクレジットカード決済にほとんど不安を感じていない。しかし、原理的にハックできる以上は不安に思う人がいてもしかたがないだろう。また、SSLなどの暗号化システムがさらに簡単・確実になっても、週刊誌代程度の、あるいはそれよりさらに少額の決済にはクレジットカードの番号を入力して氏名や住所なんかを入力して、というシステムは大仰に過ぎて、気持ちの上でなじまない。
言ってみれば、今あるkagi等のシステムは数千円程度の決済向きなのだろう。実際にクレジットカード情報が漏洩した場合の被害額という意味ではなく、万一失われたとしてもあまり大きい打撃を受けない金額、と言うことだからね。そうすると、今のWebでの決済は、手軽さでは数十円から千円以内の決済にも向かないし、確実性では何十万〜何百万の決済にも向かないのだ(あ、中にはWebで乗用車を注文する人もいることは知っている。あれって、度胸がいいだけだと思うんだけど。どうでしょ)。ちょうどいい金額の幅が、すごく狭い。これは歯がゆい。

BitCashとかってのもあるけど、プリペイドカードを買って印刷されている暗証番号を見て入力するなんて、やっぱりめんどくさくない? 自分のパソコンにカードリーダーが標準でついているとでもいうなら別だけど。
僕のネット生活がniftyの中だけだったときは、シェアウエア料金の支払い代行システムってのを便利に使っていた。手続き専用の部屋に行って購入したソフトの番号を記入するぐらいの手間で済む、簡単なシステムだった。確か自動巡回ソフトでも手続きができたと思う。しかも、月々のネット使用料にシェアウェア料金の支払いが加算されるのだ。
だからniftyが全てだったときの僕は、300円ぐらいの塗り絵ソフト「真央ちゃん」なんていうのを娘のために買ったりもしていたのだ。
いま、インターネットでそんな少額のソフトのために、クレジットカードの番号を入力したり、手数料を加算されたりしながら支払い手続きをする気になれるかな? ちょっと疑問だ。

こういう二つの事情の中で、なんかいいWeb上の決済の方法はないかな、と思っていたら、同じようなことを考えている人はやっぱりいるのだった。

ひつじ書房という専門書出版社の社長さん、松本さんって人がいる。
彼も同じようなことを考えたらしい。いや、もっと切実だろうな。
で、彼が考え出したのが「
投げ銭」だ。サイトを見て、その気になったらボタンをクリックすると、50円とか100円とかの、決められた金額がそのサイトの運営者に支払われる。そんなシステムだ。
今のところはまだ実験に過ぎない。でも、そんなシステムが本当にできたらいいな、と思う。
期待している。
あなたも、もしも同じ思いなら、応援してあげてほしい。



注:大部数が売れるわけではないが、必要としてくれている人が、喜んでくれる人が少数だけれどもいるっていう本は、今はどこの出版社も作り続けることが難しい。採算が合わないのだ。
1部しか作らなくても10万部作っても印刷までのコストは変わりようがないという事情のために、少部数にするだけで、専門書のように一冊ずつがメチャメチャ高価になってしまう。大量に刷っておいて在庫として長期間抱えていては倉庫代だってバカにならないし、それ以前に流通コストもかかる。書籍の価格は、もともと制作サイドにかなり無茶をさせて安値にしてたりするので、「多品種少量生産」なんていうのは実につらいのだ。
その点、電子的な出版は流通コストも制作コストも(とくに複製の制作については)かなり下げられる。受注があって、はじめて出荷するような方法も、ソフトのように必要な人がダウンロードするような方法もとれるはずだ(すでに少数ながら存在してもいる)。
こうした方法なら、現状よりも値段を下げても多様な出版物が生き残ることができるのではないかと思うのだ。
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2000.1.8追記:
このファイル、なんだかわからんけど公開されないままになっていたな、と思ったら、書きかけのまま放置されていたのだった。いかん。あわてて少し書き足して公開する。
で、この1年近くの間に、投げ銭は総決起集会があったりいろいろなのだけど、びっくらこいたのは、山形浩生氏が「なにをわけのわからんことをやっちょるんだ」という感じでコキオロシたりなんかしたこと(
ここ)。「アクセス向上委員会」の橋本大也氏なんかは「もっとコンセプトをはっきりせいよ、ということなのだろう」と受け止めてらっしゃいますが、なんか違うような気がする。どうも「しみったれたことをいうな。小銭を欲しがるな」と言っているようなのだ。
お金をもらうためのシステム、というふうにとらえると(もちろんそれはそうなのだが)、確かに山形氏の言うように「浅ましい」とも映るかも知れない。でもね、貧乏だけども小銭だったら払いたい、というアタシのような人にもいいシステムだと思うんですよ、実現すれば。
「Webで金を取ろうということ自体が間違いなのだ」という人もいます。
ねえ、あなた、どう思います?


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