写植の時代【9/11訂正あり】


「もじもじカフェ」の第8回は「写真植字の時代」というものだった模様。どっかで知っていたのだが出かけられなかった。ていうか、最近、自宅から1km以上離れた場所に行くことが極端に少ないな。
 
公式サイトの説明によると、「もじもじカフェは,文字と印刷について市民と専門家・業界人がお茶を飲みながら気楽に話し合うというイベント」。ボランティアによる運営とのことで、詳細は公式サイトの「もじもじカフェとは」をご参照いただきたい。

もじもじカフェウェブサイト
http://www.moji.gr.jp/cafe/

[2007/09/11訂正]------
もじもじカフェ事務局さんからご連絡をいただきました。この記事では当初「もじもじカフェ」についてプリンターズサークルのイベントと紹介しておりましたが、誤りでした。関係者の皆様には誠に失礼致しました。お詫び申し上げます。また文章を一部訂正致しました。ご了承ください。
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実はマイミクこさかさんが日記で「写真植字の時代」に言及していて、そこ経由でプリンターズサークルのブログでイベントのようすが紹介されているのを知った次第。実はプリンターズサークルのブログそのものについても、このときに知った。

プリンターズサークルのブログ
http://page.jagat.or.jp/page/Default.aspx?tabid=65

そういえば「プリンターズサークル」は印刷業界団体であるJAGATの発行している月刊誌。読んだことないけど。

プリンターズサークル
http://www.jagat.or.jp/mag/

で、ブログで読んだ「もじもじカフェ」のどの話も興味深かったのだけど、「えっ!?」と思ったのが、これ。

写真植字の時代3-文字組の実際
http://page.jagat.or.jp/page/Default.aspx?tabid=65&EntryID=550
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ゲストの駒井靖夫さんは、今回のカフェに、かつて実際にお仕事で扱った見出し文字の印字見本を持ってきてくださいました。
 
PC98シリーズユーザー待望の
FM音源エディット・ソフト
 
横組み、明朝、基本は50級(以下Q)
 
デザイナーは「50Q」としか指定しませんが、実際にいろんな字種を並べて50Qをバランス良く見せるためには、非常に細かな調整が必要です。
 
・欧文の「PC」は62Q-2JQ
・数字の「98」は70Q-2JQ
※一般的に漢字に比べ欧文と数字は小さく、数字は欧文より小さい。
だから、漢字と同じサイズに見せるためには、指定サイズより大きくする必要があるのです。
※JQは補助レンズ。サイズの微調整に使うそうです。
1JQ=5%拡大
2JQ=10%拡大
 
・カタカナは50Q-2JQ
・音引きは長体2番(=水平比率80%)
・拗促音「ィッ」は32Q
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えええっ!?

えーとね、なんで驚いたかというあたりに少し説明が必要かもしれない。

プロのオペレータさんの伎倆とセンスというのは誠に侮れないものでして、凡百のデザイナーや編集者なんか足下にも近寄れない。「どう組むとどう見えるか」を知悉している。だから、デザイナーさんによっては組むオペレータさんは決めていたというか、職人さんを指名するなんてことがあったわけです。

こういう方々がトップグレードの版下を作っていてくれたのが写植の時代なわけですから、DTPになってなんも考えずに「はい、ここ50Q」ってデータを作っていると、足下にも近づけないってのは確かです。和欧混植は難しいんですよ、ほんと。
確かな技術で品質を支えてくれてきた職人さんたち、しかも、成果はデザイナーさんのものになっちゃうわけで、日が当たらない宿命にある職人さんたち。ありがとうございます。

で、一方あたしは「JQ」なんていう補助レンズの存在さえ知らなかった(だから驚いたって部分もある)ど素人ですが、もともと(っていうんだか、なんだか、まあいいや)編集者でして、「オペレータさんは指示したことしかしない」ということを叩き込まれて来た。これは「黙って言うことを聞け」ではなく、「ここを1文字減らしたら字間がパラつくなんて一目瞭然なわけだから、気づいて直してくれればいいのに」は甘えであって成立しない、「どう始末するか(どこ辺りを空けて調整するかの方針)を指示されていないと、そりゃ越権行為になるからオペレータさんはやってくんないよ」という戒めなわけです。というのは始末のしかたにだって流儀というか、いろんな方法があるからです。

だから、ぼくの感覚では、上記のような調整は「発注側と受注側の相互に了解があるときでなければやってはいけないこと」なわけです。それが、上記の話だと、「黙っててもやってくれる」みたいに見えたわけですよ。
これ、本当にそうなのかどうか、わかんないですよ。でも改め考えてみると、実はデザイナーさんがその職人さんを指定するに至った理由はどっちだったのか、それは聞いたことがなくってわからない。黙っててもキレイに組んでくれる人だから頼むのか、意思疎通ができる人だということがなんかでわかって頼むのか。まあ、いろいろなのかもしれない。

だけど、上述のようなことを黙ってやられちゃうというのは……いいことなんでしょうか? いや、技術は認めますよ。拝みたいぐらいです。でも、「2JQ=10%拡大」って、つまりは50Qのカタカナが55Qになるってことですよ? 「音引きは長体2番(=水平比率80%)」って、文字幅が2割も狭まる、つまり文字幅だけ見れば50Qが40Qの文字幅になるってことですよ?
いや、その方がバランスよくなるんです。それは疑いません。どういう了解事項のうえで、そこまでおまかせすることになるんだろう、ってことです。あるいはまた、「そういう調整は黙って写植屋さんがやってくれるものだ」っていう話になっちゃってもいいのか、ってことでもあります。

ちなみに、私はオペレータさんの指名なんてしたことありません。ていうか、そんな知識ないし。だから、ただ50Qって指定すると、カタカナどころか和文も欧文もみんな50Qで組まれて来てしまう環境でしか仕事をしたことがありません。あ、ベースライン調整だってしてくれないことが少なくないという認識です。
単にヘボな写植屋さんとしかつきあいがなかった、ということじゃないような気がしたりしなかったり。
そして、こういう「お仕事のありかた」が、今のDTPのディスコミュニケーションとか品質低下とかトラブルとかともつながっているんじゃないか、なんて思うと、ううむ、割り切れない。

まあ、あの、なにはともあれ、職人さんたちのおかげで「そこそこなもの」だって作れていたのは確かで、感謝の念は揺るぎません。
改めて。ありがとうございます。

Posted: 火 - 8月 21, 2007 at 04:29 午前            


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