続・OS選びと安全性:もっと違う論点へ


先日の「XPとOS X、どちらが安全か?:OS選びと安全性」 の続き。
例によって、「MacWin王国 」の掲示板へのコメントにしようと書いたのだが、長くなりすぎたのでここに掲載(^^;;
掲示板のスレッドをまだ見ていなかったら、できれば見てからここに戻ってきて欲しい。

大元の投稿者(質問者)の方のおっしゃる「安全ではなく安心」ということを、折りに触れ考えていました。
もちろん、それ以後のみなさんの発言も読ませていただきました。
「安心」というのは理屈の問題よりも気持ちの問題なので、とても難しいですね。
おそらく、これからはそういうユーザーが圧倒的多数になって行くのでしょうね。
ひょっとすると、「危険がいろいろあるらしい。でも、どうすればいいかわからない」という点では、
すでに大多数のユーザーがほぼ同じ状況なのかもしれませんね。

一般論として、不安の大元は「見えない」「理解できない」「知らない」といった自分の状況にあります。
理解が進めば不安はなくなるのですが、その意味では、
「知る手だてがないのではないか」「少ないのではないか」という不安は、
かなり根源的な問題を含んでいるように思えます。ほとんど心理学の領域ですね。

実は、この問題についてあれこれ考えるうちに、
そのうち単行本にできるのではないかというぐらいメモがたまりました。
状況を良く解っていない方の不安を「情報の力で」払拭するには、一言二言の言説では困難です。
しかし、そうも言っていられないので、いくつかのポイントを。

■放棄したふたつの論点
まず、Windowsが他のOSに比べて、うんざりするほど修正パッチがリリースされ、セキュリティに
関する情報に満ちあふれている理由は、唖然とするほど安全上の欠陥が多いことが第一だ、
ということがなかなか得心できないようですね。
これはネット上ではほとんど常識なのだというだけでは、確かに説得力がないでしょう。しかし、
一般のユーザーがこれを証明することは不可能です。

前述の状況のため、他のOSについては情報がない、隠されているか、まともに検討されていない
のではないかという疑心暗鬼に陥っておいでです。
言い換えれば、他のOSはユーザーが少ないからメーカーもちゃんと対処せず、研究者もろくにいないか、
まともに研究しておらず、メディアもまともに採り上げない、ということが起きているのではないか
という不安ですね。
これを「そんなことは起きていない」と言うのは簡単です。しかし説得力がないですよね。

優秀なハッカー(尊称としてのハッカーですよ)たちは、どんなOSにであれ欠陥を見つけたら、
それを黙っていられるような人種ではありません。いかにして短時間で全世界に知らせるかに
血道を上げるような人たちです。
ですから、私は「そんなことは起きていない」と考えていますが(というよりも、疑う理由が
ないのですが)、本当に「そんなことは起きていない」と証明するのは、やはり不可能です。
したがって、私はこの2点については考えるのをやめました。

上記の2点の真相がどうあれ、セキュリティとOS選びについて考えるのであれば、
下記の点は理解しておいていただいた方がいいだろうと思うことだけ、書くことにします。
それだけでも、またまたかなり長くなってしまいました。ご容赦ください。

■一般の媒体はセキュリティ情報については頼れない
セキュリティというのは「事前の備え」です。
OSの穴についてもウィルスなどについても、いかにユーザーがアンテナを張るか、
つまり、なにを情報源とするかがキモなのです。

そう考えたとき、一般の媒体(新聞や週刊誌)は、セキュリティ情報については完全に力不足です。
情報技術関係の専門記者・編集者を部内にかかえていないため、
「ほぼ例外なく三次報道よりも遅く・内容も薄くなっている」
「問題の軽重の判定ができていない」という欠陥を持っているからです。
本当に社会に大打撃が与えられてから報道されているのです。
ということは、一般の媒体で大きく扱われる事態になった場合、すでにかなり多くのユーザーが、
即ちオトモダチも被害を受けている可能性が高いのです。

一般の媒体では、Windowsに関するセキュリティ情報でさえ十分には得られません。
これは「Windowsについての情報ならまだ多少は得られる」という問題ではなく、
「ユーザーにとっては、ほとんど何の役にも立たない」という状況です。
つまり、こういうことです。
「一般の媒体でも情報が得やすいかどうか」を基準にしてOSを選ぶのは、
それによって「安心してしまう」可能性が高いので、とても危険です。
選択の基準にできるような事柄ではありません。

■ネット上のPC系媒体の情報は必見
セキュリティに関する情報は、「ネット上のPC系媒体」が頼りです。
そして、「ネット上のPC系媒体」は、よほどマイナーなOSでない限り、
穴が発見された場合はちゃんと報道しています。
OSを問わず、こうした媒体には常に目を通すべきです。
毎日、あるいは日に2回以上配信(または更新)されるような情報源であれば、
一次情報から半日以内に情報入手が可能でしょう。
IPAや対策ソフトメーカーのサイトがいいのですが、
見て楽しい媒体ではないので、そのうち巡回をさぼるようになるかもしれません。
もっと読み物的な要素のあるPC系(あるいはデジタル系)の媒体がよいと思います。
新し物好き・デジタルアイテム好きならASCII 24やソフトバンクの各種メルマガあたりでしょうか。
文化的なことにも関心がおありなら、hot wiredなんかいいかもしれません。
全般的なPC系ニュースだとZDnet Newsなんていうのもありますね。
Slash Dotとか個人の情報サイトでも、一般の新聞や雑誌よりは、はるかにいいです。

相対的にユーザー数が少ない環境についての情報が十分に得られるか、
という点については、上記のようなネット上の媒体でなら得られます。
一般の新聞や雑誌は、Windows以外のOSがあることは忘れているかもしれません。
日立がLinuxをプリインストールしたPCの新型をリリースしていないので、
Linuxはなくなったと思っているかもしれません。その程度です。
アテにしてはいけません。

■被害に遭っているのは「情報に疎い人」
統計としては有意ではありませんが、私の周囲のPCユーザー40〜50人は、
WindowsとMacがほぼ半々です。ごく少数が仕事ではUNIXを使用しつつ、
自宅ではWindowsかMacを使っています。
彼らのうち、2000年以後にウイルスやセキュリティホールなどに由来する
困った事態に遭遇しているのは、例外なくWindowsユーザーです。
その全員が、メールに起因するウィルスやワーム、トロイの木馬などに感染した、というものです。
幸いにして、セキュリティホールなど、OSの致命的欠陥によって被害を受けた人はいません。
(もっとも、猛威を振るったメリッサやKlez、BadTransなどは、MSIEやMSOEの初期設定を
利用しているという意味でも、MSがsの初期設定を一向に改めないという意味でも、
Windowsの欠陥を突いたのとまったく同義だと私は思っていますけどね。非難を受けまくっている
ActiveXも、どうにかならんものか。諸悪の根源のひとつですよね)

これらの被害者たちに共通するのは、セキュリティ情報に疎い、ということです。
PC系の媒体には「わからないから」という理由でまったく目を通していない人ばかりです。
ウィルス対策ソフトをインストールしてあっても、処理が遅くなるという理由で止めてあったり、
ウィルス定義ファイルを更新していなかったり、といった状況です。
もちろん、危険なウィルスなどが流行の兆しを示しているという報道があっても、
何日も経っているのに、その情報を知りません。
もちろんMSIEもMSOEも使っています。初期設定のままで。

たいがい、文字化けやフリーズに遭遇して「ひょっとしてウイルスなのか?」と疑う程度には
ウイルスというものの存在を知っています。
でも、セキュリティホールについてはどうだろうなあ。知らないかも。
そして、被害に遭ってからも、だいたいの人はMSIEとMSOEを使い続けています。
タダだから、前から使っているから、という理由で。
こんな調子ですから、甚だしい人は何度も同じウイルスに感染しています。

■被害に遭わないのはWindows版のMSIEとMSOEを使わない人
Windowsユーザーでも、MSIEもMSOEも使っていない人はウィルスの脅威とほぼ無縁です。
もちろん、こうした被害にはまったく遭っていません。
そういう人の中には、Windowsを使っていながらMSIEとMSOEを使い続けている人は、
犯罪を犯しているのと同義だ、とまで言う人もいます<言いすぎだとは言いにくい(笑)
彼らの多くは、なんらかの形でセキュリティに関する情報を含むコンピュータ技術一般に
ついての媒体に、一応目を配っています。
が、基本的な対処ができているので、あまり細かくは見ていないようです。
なかには、MSIEとMSOEをアニンストールすればアンチウィルスソフトは不要だと言いきる人もいます。

2000年以前に遡ると、98年に、DTPを生業としているMacユーザーの多くが感染経験をもっています。
これは、メディアを媒介としてAutoStart98というワームに感染した、というものです。
98年に猛威を振るいましたが、翌年、翌々年にもちらほらと感染報告がありました。
私の周囲では、ほとんどのケースは水際で食い止めた、大きな被害になる前に見つけた、というものです。
それでも、完全に駆除するためにはすべてのメディアをチェックしなければならないので大騒ぎ。
まったく無防備にこのワームに蹂躙された知り合いは1箇所しかありません。
初心者向けのPC雑誌を作成している会社のデザイン部門でした。
デザイナーさんには、往々にしてパソコンそのものにはまったく関心を払わないところが
ありますので、いかにもな感じですね。

そのMacユーザーの彼らも、何年かするうちに、セキュリティについてはだいぶヌルくなっています。
「のど元過ぎれば熱さ忘れる」ですね。
しかし、結果としては何の不都合もなく、ここ数年を過ごしているわけです。

セキュリティホールも含めて、新しい危険や欠陥は、
これからも発見され続けることでしょう。とくにWindowsとUNIX(含むMac OS X)には(^^;;
だから、セキュリティについては「安心しないこと」が「安全の秘訣」かな(^^)

繰り返します。
「安心できるOSはないか」という基準でOSを選択することは、
選択を終えたところで安心してしまう可能性が高いので危険です。
一般の新聞・雑誌はセキュリティ情報に関してアテにできません。
PC関係の情報を扱っているサイトやメルマガ、MLを利用しましょう。

■安心させてくれるのは「人」「コミュニティ」
前に、相談役の話を少ししました。
実は、親身になってくれる相談相手が、まさに「安心」の特効薬でしょう。
トラブルに遭ったときに限りません。
読んでもわからない記事があったときに、率直に聞ける。
気をつけなければいけない事件があったときに教えてくれる。
これは、個人である必要はないでしょう。
ネット上でも、そうでなくてもよいのですが、ユーザーグループみたいな場があるといいですね。
Windowsの場合については知りませんが、Macについてであれば、
私は、例えば「みんなでMac」というMLに参加しています。
こちらのMacWin王国のようなサイトの掲示板なども、とても有益なコミュニティです。
相性の合うコミュニティを見つけられればそれが一番のような気がします。

(以下は余談のような本題のような)プログラムを始めたいなら
お友達はプログラミングを始めたいとおっしゃっているのであれば、
居心地のよさそうな「初心者歓迎の」コミュニティ探しから始めてみてはどうでしょう。
ネット喫茶みたいな場所ででも、ふたりで並んでいろいろ検索してみてはいかがですか?
どんなプログラムを作りたいのかにもよりますが、日曜プログラマはどのOSユーザーにもいます。

絶対数はもちろんWindowsのユーザーが多いでしょうけれども、
ユーザーに占める日曜プログラマを割合だとUNIXが一番かな。
LinuxやBSDなら、開発用ツールもフリーウェアが多いでしょう。
お金がかからなくて、比較的敷き居が低いのはMac OS Xでしょうか(開発環境がOSに付属しています)。
お金はかかりますが、VBなどという、わかりやすく簡単でユーザー数の多い環境があるのは、やはりWindowsです。
★ネットであまりに情報が多いということは、玉石混交や断片的情報にもなりやすく、
★「ここを押さえておけば、まあ安心」という教科書的情報源にたどり着きにくい場合もある、
★ということも知っておいた方がいいかもしれません。

目的がプログラミングでなくても同じです。
DTMがやりたいとか、3DCGが作りたい、ビデオを制作したい、Webサイトを作りたい、
道具(アプリケーション)選びも大事です。定番アプリが使えるのが、どのOSか、
なんていう場合だって、よくあります。
どういう目的であっても、一人で本だけを頼りにコツコツやるよりも、コミュニティに
参加した方が張り合いもできるし、情報収集も楽になります。

というわけで、コミュニティに着眼してOSを選択すれば、比較的幸福なPC生活を送れると思います。
それに、ここら辺を考え始めた方が、「安心なOS」を探すよりは、「プログラムづくり」に向けて
前に進みますよ(^^)

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Posted: 日 - 8月 3, 2003 at 01:22 午前            


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