2004.4.23

本はどうやって作るか −中学生の総合学習の時間のために−

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2.)企画を立てる

b-2. 企画書

たとえば、ある牧場を紹介する記事を作るとしましょう。

その牧場のことを全く知らない人に向けて、そこを訪ねてくれるように書くのであれば、まずはその牧場の素敵な部分を思い描いてもらえるようにしたいものです。場所を説明するのも、住所を示すだけでは足りません。地図を入れたりして、具体的にしましょう。
文章や写真も、周りのようすなどが目に浮かぶように、どんな土地柄のところにあるのか、近づいて行くとどんな風に見えてくるのかなどといった、読む人の想像力に訴えかける書き方や撮り方を選ぶと効果的だと思いませんか? では、いっそ「探訪記」のような形にして、「わたしは」と第一人称で書くと、いよいよリアリティが増すのではありませんか? 大きなカラー写真をできるだけ載せると、イメージが伝わりやすくてよさそうですね。

一方、地元の人なら誰もが知っている牧場であって、ただし、そこでの日々の仕事についてもっとよく知ってもらいたいから書くのであれば、違う書き方が出てくるでしょう。まず誰でも知っていることについて確認する程度に簡単に書き「あそこの話だよ」とわかるように紹介すれば十分です。地図なども不要かもしれません。
そして、より知って欲しいテーマにすぐに入って行く方が、なにを伝えたいのかが明確になります。例えば朝の「飼い葉やり」から始まって夜の片付けまで、一日の仕事をざっと駆け足で紹介します。そのうえで、細かく詳しい話に入って行くようにすると、理解もしやすいでしょう。この場合、1日のタイムテーブルを図入りの表にしたり、1年間の仕事内容の移り変わりを季節のイラストを入れながらチャート図にしたりすると、文章を読まなくても目で追うだけで大まかな事がわかるようになり、関連した文章も頭に入りやすくなります。例えば、1年のようすの方は図をメインにして、文章はほんの少しにしても用が足りるかもしれません。
文章は、新聞や雑誌でよく見るような、書き手の姿が見えない書き方の方が内容に注目してもらいやすいでしょう。書き手が考えた事は最後にひとつにまとめると、「見た事」と「考えた事」の区別がつきやすくていいかもしれません。
写真も白黒で小さいものを本文を補うように配置する程度にして、特別にカッコイイところだけを最初に大きくカラー写真で使うようにすると、情報も十分に伝え、それまでのイメージとも変わってくるのではないでしょうか。

企画というのは、こうしたことを考えたり決めたりするために、「記事というのは、どういう要素でできているのかを考える」という作業でもあります。

これらのことを考えるためにも、目次を決めるためにも、全体や記事のひとつずつについて、下記が決まっていると考えやすくなります。これらは記事を書くときにも、取材をするときにも重要な指針になります。

b-2-1 どんな読者と視点(目的。狙い)を想定するか

  • 地元向け1 みんなが情報を共有するためのもの
  • 地元向け2 地元を見直してもらうためのもの
  • 外部向け1 よその人に「来てね」というためのもの
  • 外部向け2 よその人にその土地を知ってもらうためのもの
  • 外部向け3 よその人がその土地に来たときに持っていると役に立つもの
  • 外部向け4 紙の上で想像上の旅を楽しんでもらうためのものか
  • 年齢 中学生に読んでもらうのか、大人に読んでもらうのか、etc. etc
  • 性別 男性向け、女性向け、性別不問

読者対象や狙いが決まると、後で説明する「記事のツクリ・スタイル」も決めやすくなります。また、記事ごとのテーマもはっきりしてくるでしょう。

例えば、大人の人向けと小さな子ども向けでは、言葉遣いや使える文字が変わってきます。語りかけるように書くか、新聞のように淡々と書くか、といったことを考えるときにも影響があるでしょう。

こうした読者対象や狙いは、本1冊全体で共通していることもありますし、記事ごとに違うこともあります。多くの場合は、全体の狙いがあり、さらにそれと矛盾しないように、記事ごとにも狙いをたてます。

全体の狙いと記事ごとの狙い

本1冊で読者対象や狙いが共通している場合は、深みが出て、全体のメッセージが強く出ます。実用書なら、実用性が高くなると言えます。しかし、全体としては単調になり、全体を読み通すのが少し大変な感じになるかもしれません。お店売る本の場合は、このタイプがほとんどです。雑誌でいえば、専門誌や特集記事(複数の記事の組み合わせでひとつのテーマを扱うもの)がこのタイプです。テレビでいえば、ひとつの番組です。

記事ごとに違う場合は、バラエティに富んで楽しくなり、幅広い人に楽しんでもらえ、誰にでもある程度役に立つことになります。その反面、全体を通して読んだときの読者の満足が低くなります。無料で配布するものに、このタイプが多いと思います。雑誌でいえば一般の雑誌、テレビでいえばひとつのチャンネル丸ごとがこのタイプだといえるかもしれません。

b-2-2 記事のツクリ・スタイル

記事には、いろいろなスタイルがあります。たとえばこんな具合です。

図版主体で文字は少しの「見る記事」(ビジュアル記事)

  • 写真中心のグラビア記事ふう
  • イラストマップにする
  • マンガレポートにする
  • 昔の本の図版を集めた「図録」 など

文章を中心の「読む記事」(読み物記事)

  • 現地を歩いたルポふうにする
  • 歴史物語ふうにする
  • その土地やものについての考えをまとめた「論説」 など

箇条書きなどが中心の「情報記事」(カタログ記事)

  • 写真と組み合わせる
  • 地図と組み合わせる
  • 文字中心にする など

「こぼれ話ふうの短い話題をコラム(カコミ記事)にする」などということも、このとき併せて考えられるとよりよいでしょう。

コラム(カコミ記事)

ここまでの記事でも出てきましたが、この文章のように、途中で余談めいた話を黄色い四角に入れて書いてある部分がありますね。これがコラムです。このように線で囲ったり、地色を敷いて本文と区別がつくようにしたりする事が多いので「カコミ記事」などと呼ばれます。

コラムは、関連のある話題なのだけれども、本文で説明すると、ちょっと話が寄り道してしまってわかりにくくなるときにも作りますし、誌面が単調になりそうなときにリズムをつけるためにわざと作る事もあります。

また、ちょっと異質なものを目立つように挟み込みたいとき(例えば、訪問レポートのなかに具体的な住所や地図を入れるとき)にも、わざと見出しを付けてコラム扱いにしたりもします。

もちろん、マンガレポートのなかにイラストマップを入れて、さらにそこにカタログ風に情報を詰め込む、といった「合わせ技」だってOKです。ちょっと大変になりますけどね(^^)

「ビジュアル記事」が多い場合、あまり小さな判型では息苦しくなります。全部のページを白黒にするよりは、カラーのページも欲しくなると思います。また、持ち歩きやすいのは、あまり大きく分厚い判型ではないはずなので、現地に持って行って使ってもらうことを主眼にするのなら、あまり旅の邪魔にならないような大きさや厚さに抑えるといいでしょう。

本全体をひとつのスタイルに統一すると、単行本の感じです。一方で、いろいろなスタイルの記事を入れると雑誌風になります。

どのテーマにはどんなスタイルが合うか、どの読者にはどんなスタイルが合うか、どの担当者にはどのスタイルが合うか、記事の狙いに合うのはどのスタイルか……スタイルの決め方もいろいろです。

b-2-3 書き手やカメラマン、イラストレータ(つまり仕事の担当)

誰が何をするのかを決める、ということです。

文章を書くのが得意な人、絵が得意な人、写真が得意な人、調べるのが得意な人などというふうに、なんにでも得手不得手はつきものです。仕事で本が作られるときは、それぞれの得意な人が担当するのがいい(適材適所)と考えられています。でも、実際には「なんとかやれる人」「時間の空いている人」「ギャラの安い人」になってしまうこともしばしばあります(^^;;

中学生なら、あえて苦手なこと、やったことがないことにチャレンジするというのもいいと思います。

記事のスタイルを決めるときに、「得意なことを活かす」という決め方もありますよ。


これらの情報(読者、狙い、スタイル、分担)を簡単にまとめた書類が企画書です。部分的には未決定の要素があったってよいのですけれども、だいたいは決まっていた方が、後の作業がやりやすくなります。

学校で本を作るときは、生徒がスタイルを選んで先生が担当や狙いを決めるとか、生徒が担当や記事ごとの狙いを決めて、先生がスタイルや全体の狙いを決めるとか、そんな風に役割分担すると、決めやすくなるかもしれませんね。

こうしてできた企画書が全体の設計図になり、記事を作成したり取材したりするときの指針を与えてくれる羅針盤の役割も果たします。判断に迷ったときには、企画書を読み直すと良いでしょう。

企画のお手本(なにを参考にするか)

本の企画を立てるときに参考になるのは、やっぱり本です。といっても、本の作り方についての本ではありません。資料として集めた本を見てみましょう。グールプ分けでA1やA2にランクされた本が、とりわけいいお手本になります。また、集めた資料とは別の本でも、気に入っている本があったらお手本にならないか、考えてみるのもいいでしょう。

その本は、その記事は、どんな読者に向けて書かれていますか? どんなスタイルですか? 写真やイラストの使われ方は? 記事の分量は?

自分の気に入った本を真似してみるのは、プロも最初のうちは熱心にやっていますよ(ただし、多くのプロは、そこに自分なりの工夫を付け加えます)。

さて、次は企画書をもっと目に見えるような形にする「サムネール(コンテ)づくり」と、実際の「取材」です。


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