fairy tale of Kuriyama


栗山村キャンプの写真は、いま、Mr.Kが美しく編集中だ。が、パゲマスの手元にもオリジナルデータはある。オリジナルデータを眺めているうちに、パゲマスは一点の写真に気づいた。

上の写真を見て欲しい。手前の人物はKである。向こう側にいるのはタケちゃんだ。場所は、最初のキャンプ候補地であるオクダブリ。テントが張れそうか、増水の危険は……と検分しに行ったのだ。彼らが立っているのは川の中だ。足元は水が流れている。光線の加減か、まるで水面に立っているように見える。
水上歩行だ。キリストだ。水が透明だからこんな風に見えるのだろう。冷たい水だったなあ。TやKは顔を洗っていたなあ。オレも洗ってみれば良かった。
そんなことを思いながら写真を見ていた。

ふと、Kが何かを指さしているように見えることに気づいた。何を指さしているのだろう。
右隅にあるのは、飲み差しのビールの缶らしい。Kはこの缶を指さしているのか? 缶を良く見ると、缶の上になにか昆虫のようなものが見える。写真に赤い丸をつけた部分だ。
昆虫なら不思議でも何でもない。栗山村には昆虫も豊富だ。どこでもトンボを多数見かけたし、そういえばパゲマスもキャンプから帰ってきてみたら、体のあちこちに赤い丸が付いていた。

検分に行ったのだから、指さしぐらいしていてもおかしくはない。缶ビールだって珍しいものではない。しかし、どうも気になる。虫にしては大きくないか? トノサマバッタならあれぐらいはありそうだ。カエルか? 何か妙に引っかかる。

パゲマスは、慎重に補正を加えながら、写真を拡大してみた。デジカメの画像は解像度が低く、いきなり拡大してもモザイク上になって何がなんだかわからなくなってしまう。少し拡大しては補正をかけ、また少し拡大し、と遅々とした歩みをこらえながらの気の遠くなるような作業だ。何がパゲマスをそんな気の遠くなるような作業に駆り立てたのか……夜から始めた作業は払暁を迎えるころに終盤に入った。パゲマスの目を奪うものが徐々にそこに浮かび上がってきた。ぼんやりと、だが明らかに姿を現してくるものの意外さに、パゲマスは眠気を忘れた。

自分が見たものが信じられないパゲマスは、その時現場にいた誰彼の顔を思い浮かべた。タケちゃんと英子さん、みーちゃん。誰も缶ビールは持っていなかった。TとKも持っていなかった。だいたい、タケちゃんとTは車を運転していたのだし、英子さんはみーちゃんを抱いていた。Kはそんなにノンベではない。みーちゃんは、まだビールは飲まない。
この缶ビールは、どこから来たのだ? オクダブリを思い出そうとする。われわれがたどり着いたときにはゴミ一つなかったのではないか……?

今思うと、写真のデータをKに渡すためにカメラからデータを取り出そうとしたときから異変は始まっていた。データが取り出せないのだ。マニュアルは見つからないし、専用のアプリケーションはかたくなにカメラを認識することを拒み、あるはずのない「ビデオを保存するか」と聞いてくる。そのくせ、写真そのものは表示する。

なんとか無理矢理写真をMacに取り込み、無理矢理なので勝手に写真の周りにくっついてくるグレーのマージンとファイル名を、Kが設定した画像ソフトの切り抜き機能を使って切りはずし、写真が同じ大きさになるように調整する……が、写真の大きさはそろわない。夜は更ける。Kは自分の事務所で作業をするべく、やむを得ず写真を持ち帰ったのだ。
……何かの意思が働いていた……?

パゲマスが拡大と補正で取り出した画像を、ここに公開するには迷いがあったことを告白しておこう。缶の上にいたのは虫でもカエルでもなかった。右下の写真を見て欲しい。

そう、そこにいたのは、ほかならぬMr.Kだったのだ。

真実は、次のページで明らかになる。 go to next


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