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2000年版


2000.8.9

●「ホームページ」と「ハッカー」

 ことばが生き物であることは否定しない。その意味や表現・表記は刻々と変化していくことは承知している。「正しい」なんてものはないのだ。
しかし、背景のあることばが背景を失い、ひとつの文化から生まれたことばがその文化から切り離されていくのに荷担するのは、(それと気づいていないならともかく、気がついてしまったら)ちょっとつらいものだ。

インターネットについての本を編集したり、原稿を書くことがある。そのとき頻出するのが「ホームページ」ということばだ。わたしは「Webサイト」「Webページ」という表現を使いたい。「ホームページ」ということばは、ブラウザに設定された「ホーム」や、サイトのトップページを指すものだということを知って以来のことだ。
とくに、初心者向けの解説記事を手がけるときはこの思いが強い。
また、「ハッカー」「ハッキング」という表現も「Webサーバーに攻撃を仕掛ける人」「WWWで破壊活動をする人」やそういうふるまいの意味で使いたくはない。そういう輩は「クラッカー」と呼ぶのだと知り、ハッカーはむしろ尊称に近い、という主張を知っってしまったからだ。
あるアプリケーションを改良する、気の利いた短いコードをちょいちょいと書いてしまうことを「あれはGood Hackingだ」と表現する、なんていうことを知ってからは、いよいよハッカーということばを使いたくはなくなった。なんかGuruのような意味かと思っていたら、もっと軽いニュアンスがあるという話だからだ。
折良く、世間では「クラッカー」「クラッキング」が定着する前に「サイバーテロリスト」なんていう表現が跋扈し始めている。「ハッカー」の用法に苦しむくらいならそういう言葉や「ネット犯罪者」ということばでも使おうかと思う。
原稿を書くときに、一度は編集部に対して確認をし、こうしたいのだが、と提案をする。しかし、こうした思いは受け入れられないことが多い。「すでに表現が定着した」と考える編集者が多いためだ。彼らにとっては、上記の定義は「かつては」「元々は」であり、「原義」なのだ。「おかしい」を枕草子の「おかし」の意味で使う人は、いまどき絶滅危惧種でしょ、というわけだ。おまけに、私は「初心者向けならばこそ誤った定義が流布してしまったものをなんとかしたい」と思ったりするのだが、逆に「そんなことを書いたら、初心者は混乱するじゃないですか。それは触れないでおきましょうよ」というわけである。
わたしは「著者」や「編集責任者」であることはほとんどない。そういうときには上記の方針を退けられるのだが、そうでない「編集を請け負った人」「原稿の制作を請け負った人」であるときには、「もともとは××の意味」という一文をどこかに(たとえば巻末用語集や解説コラムの片隅に)紛れ込ませるべく腐心することになる。
しかし、そうやって苦心して入れ込んだ記述は、分量調整の最初の犠牲者になるのだ……。
新聞もすでに「ホームページ」どころか「ホームページ(以下HP)」などと、ちょっと前からのコンピュータユーザーが腰を抜かしそうなことを平気でしている。「コンピュータの世界では、“HP”ってのはベンチャー企業のハシリ、ガレージメーカーの元祖“ヒューレット=パッカード社”のことだぜ」などと言おうものなら、「それは“コンピュータの世界では”だろう? こっちは“ふつうの世界”でのことのなのさ」といわれるのが落ちだったりするのだ。

「初心者向けだから、ややこしいことは抜きで」というのは分からなくもない。ひょっとすると、「初心者向けだからこそ、その背景にも目を配りたい」と思うのは、どうやら的はずれであり感傷に過ぎない、というのがこの道の常識ということらしい。


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