2004.4.23/4.29

本はどうやって作るか −中学生の総合学習の時間のために−

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実は、本の作り方は作る人や会社、編集部によってそれぞれです。「だいたいこんな具合」と言うことはできますが、実際には、人により本によってだいぶ違うことがあります。ふつうは、最初に「どんな本にするか」を考えて決める「企画段階」を経てから本づくりに入るのですが、そうでないことさえあります。典型的なのは「持ち込み原稿」がある場合。いきなり原稿作成が終わったところから始まっちゃうんです。この場合、企画は原稿の後、ということになります。

また、激動する現代にあってはジョーシキというようなものは日々失われて行っています。悲しい事に「去年の常識は今年の非常識」だったりする今日この頃なのです。もちろん、先にも言ったように人によっても違いますから「ウチの常識はトナリの非常識」なんてこともあります。ですからこれは、あくまで「少し年寄りに近づきつつある、ひとりの人間の考えてる本づくりの話」としてお聞きいただければ幸いです(あ、読むのか?・笑)。

以下は、およそプロがやる作業の順番に沿って書いていますが、実際には、やりやすいように順番を変えたり、省いてしまってもいいと思いますよ。省き方や、順番の入れ替え方についても、途中で少しずつ触れています。

本づくりは、上の図のような順番で作業が進みます。この後の文章は、この図に沿って解説して行くことにしましょう。

0.)テーマを決める

漠然としたものでよいので、どんな内容の本を作るかを決めます。

今回は、これはもう決まっていると聞いています。みなさんがいま住んでいる地域の本をつくるのですよね。余裕があれば、この段階で、もう少し細かいこと(2のb-2-1参照)を決めてもいいでしょう。

1.)下取材

テーマが決まったら、そのテーマに沿って情報を集めます。資料を集めて読むのも取材のうちです。この段階での情報集めは「準備のための取材」という意味で「下取材」と呼びます。

資料をかき集めて全体をざっと読み、ソコソコようすがわかったら、次にやれることは3つあります。

a. 資料をランク付けする

便利な資料はどれか、信じられる資料はどれか、いくつかのグループに分けます。集めた資料が、使えるものか、信用できるものかどうかを見極めるということです。難しげに「資料批判」ともいわれます。信用度でAB、便利度で123。合わせてA1からB3まで、なんていう方法でもいいでしょう。

慣れてくると、グループ分けしなくても「あれはA1」というのは一目で見抜けるようになり、決して忘れなくなりますけれど、最初は、そういう目で資料を見る練習ということで、実際にグループ分けしてみるとよいと思います。

便利かどうか これは、資料を読んでみればわかりますよね。目的の記事が見つけやすい。役に立つ(立ちそうな)情報がたくさん出ている、持ち歩きやすい、詳しい、わかりやすい、etc. etc.。「おもしろい」「楽しい」「きれい」というのは「便利」とは違いますが、魅力があるという意味で「同じ便利度」ということにしてしまってもいいでしょう。

一次資料 一次資料というのは、歴史資料などの場合は、原本(写しなどではない現物)、自筆資料(印刷などではなく、本人が自分で書いたもの)などを言います。しかし、旅行ガイドなどの場合は、現場や本人に直接当たって書かれたものと考えていいでしょう。一次資料の引用だけ=現場を調べないでできているものが、二次資料です(もちろん、三次資料=マゴ引き、四次資料というものだってあり得ます)。

なにが一次資料か

入手した資料のうちには一次資料として扱ってもいいものもあるでしょうけれども、実用書の類いには「ノリとハサミで作ったもの」が混じっている可能性もあります。
いくらなんでも事実関係の確認はしているでしょうけれども、執筆者などが明らかでない情報は、信頼度という意味では二次資料だと扱うのが慎重な立場です。

なにが一次資料かというのは難しい問題もありますが、個人の著書ないし、特定できる団体が編纂したものは、他からの引用はその旨を明らかにしているに違いない(そうでないと、裁判に訴えられたら確実に負けます)という意味で、一次資料であるか、二次資料だとしたらそれとわかるように作られている確率が高いでしょう。

執筆者が特定できそうに見えるものに、その本の名前を付けた「××編集部」とか「××制作委員会」なんていうケースがあります。ところが、この場合、実態は団体ではなく寄せ集めだったり、個人だったりすることもあります。連絡先が出ていなかったり、個人名が全然出ていないものは、実態がないものと同然と扱うのが慎重な態度です。

旅行ガイドなどで一次資料と言えるものには、地元の観光課などが出している案内の類いも入るかもしれませんが、これも、ヘタをすると、東京の業者に発注して作っていたりするので、所用時間や乗り換え情報、住所や電話程度しか信頼できないこともあります。

信頼できる二次資料 信頼できる二次資料は、引用元の情報がしっかりしているもの、また、執筆者などがはっきりしているもの、と言っていいでしょう。

その他の信頼できる資料 こうした「一次」「二次」ということとは別に、当事者が書いた記録、逆に、当事者ではなく第三者が書いたもの(当事者は、どうしても感情で目が曇りがちです)、第三者のなかでもその道の専門家の書いたものなどがあるでしょう。また、自分たちがよく知っていることについてはウソが少ないもの(^^)という選び方もできます。こういう要素を組み合わせて、より信用できる資料を選り分けましょう。

たくさんの資料のなかで1点だけ違った内容が出ている場合、これは判断が難しい。ほかの本がマゴ引きで作られているから内容が重なっているだけかもしれないからです。ただ単に詳しいだけなのか、間違えているだけなのか。現場などへ行って「裏とり(正しいかどうかを調べるための調査)」をしてみるしかないかもしれません。

こうやって、どの本(どの記事)が信用できる本かを見極めて行き、信用できない本(記事)に出ていたことは使わないか、本当かどうかを調べて、本当だとわかるまではウソの可能性が高いと考えることにします。

b. 直接取材をする

資料を読むと、もっと詳しく知りたいことが出てきます。あるいは、ひどく関心を引かれるものや人に知らせたいものが見つかります。

採り上げたいものや場所、人について、実際に現場に行ってみたり、その本人に会ってみたりするのが「直接取材」です。

二次資料の作者たちも、事実確認だけはたいていしています。でも、できるだけやるべきなのは「現地取材」です。時間が経つと、変わってしまっていることもたくさんあります。本で読んだだけで想像していたのとは、まるで違うこともあります。

現地取材をすることによって、資料からは見えなかったことも見えてきて、やりたいこともはっきりし、「これについてはああしたい」「あれについてはこうしよう」と、企画が立体的なものになることが多いのです。

いつ直接取材をするか

直接取材をこの段階でやるかどうかは、判断の別れるところです。というのは、後で追加取材が必要になったりしたら二度手間になるからです。

近所で取材が済む、時間がかからない、人にあまり負担をかけない範囲でできる(同じ人に二度も三度も取材をするのは、失礼に当たります)ときは、この段階でも少し直接取材をやってみるというぐらいがよいでしょう。

予算や時間に余裕がない場合には、この段階での直接取材は、はぶくことになります。

c. 詳しい人に聞く

現地の事情など、知りたい点について詳しい人に話を聞きます。ま、ほとんど「b.」と同じことです。ただ、本人じゃなくても聞けることってあるものだよ、ということです。ただ、これは資料で言えば「二次資料」のようなものです。

遠くのことについて本を作るときには、直接取材は難しいので、最近行ってきた人に話を聞くという手段がよく使われます。これがきっかけで、その人の体験を記事にすることになる場合もあります(^^)

さて、このように資料批判をしつつ、入手できた情報の山と格闘しながら、具体的にできあがりがイメージできるようにプランを練ります。これを「企画を立てる」といいます。

では企画を立てるって、どういうことでしょう。次は「企画」の話です。


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