3月に出た本:Design Basic Book


先のエントリの続き。今度はBNN新社『Design Basic Book—はじめて学ぶ、デザインの法則』(版元AmazonARV)の方の話。

この本では、部分的に執筆と作図をした。構成にも口を出した……かな。
第何章とすぱっと分けられないんだけど、組版関係のところとか、レイアウトの基本的な考え方とか、図形の喚起するイメージとか、そういう辺り。

執筆者プロフィール原稿に書いたのだけど、本になってみたら載っていなかった文がある。好きにつまんでいいと言ってあったので、別に文句はない。ないけど残念なので、ここに書いておく。下記の赤字の部分だ。

「亀尾敦 かめお あつし (D.C.L)
1960年生まれ。フリーランスの編集者、ライター。共著者・編集者として『DTPワークフロー入門』(MdN)、『DTPフォント完全理解!』(ワークスコーポレーション)、ブックレット『匠』シリーズ(アドビシステムズ)などに携わる。本書では上記をはじめとする取材や制作過程で出会ったデザイナー、アートディレクター、DTPオペレータ、ライター、編集者諸氏からうかがってきたお話から、現場に根ざした情報のエッセンスをぎゅっと圧縮して提供。
http://www.kameo.jp/works/

そうなのだ。この本には、僕がデザイナーさんたちから教わったことをぼくなりに再現して書いている。腕っこきのデザイナーさんたちが「デザイナーがデフォルトでクリアすべきこと」と考えているであろうアレコレが、並んでいる。

だから、これまでに出会ったすべてのデザイナーさんにお礼を言いたい。ありがとうございます。みなさんから学んだことで原稿料をいただきました。

そうだ。DTPに関する本だって同じだ(この本は、どっちかというとDTPに関する話はごく限られている本だけど)。自分で見つけたことなんて、ほんの少しだ。ぼくの周りにいる、DTPを生業にしているみんなから直接間接に学んだことを書いて来たのだ。編集の段階で、そこに埋め込んで来たのだ(それは執筆者から得たものに限らない。なんとかして持っているものを全部入れ込もうとしてジタバタするのは、ぼくの悪いところだ)。

そんな意味で、改めてお礼を言います。喜ばせてくれた人も困らせてくれた人も、これまで一緒に仕事をしてきたすべての人に。
これまで一緒にお仕事をさせていただいた、すべてのみなさんのおかげで、何冊もの本を作ってきました。ありがとうございます。


さて、書名からも明らかなように、この本はデザインに関する本だ。これからデザイナーを目指す人とか、いまデザインを仕事にしはじめた人とかが対象。

ぼくも編集を生業にして20年以上経つのだから、エディトリアル・デザインの世界をそれなりに見て来たとは思う。けれども、ぼくはデザイナーじゃないし、デザインを重視した本に関わることも少なかったと思う。だから、この本に関わらんかと言われたときも逃げ腰だった。逃げ損ねたんだけど。
ただ、これまでの仕事の中でデザイナーさんと話をすることは多かった。自分が疎いもんだから、なんでもかんでも相談したってこともあるかもしれない。「こういうことを狙っているので、こんなふうにしたいと思うんだけど、どうだろう。ぼくの書いたラフにはこだわらない。ただ、そんな線で考えて欲しい」などという依頼の仕方をするのだ。デザイナーさんにもいろんな人がいる。そもそも、自分の考えをしゃべって説明したりすることよりも、実際に作る方が得意だろう。けれども、「自分のデザインを説明できてなんぼだ」と考えている人もいる(名のあるデザイナーさんは、おおむねそれができるようだった)。ぼくは幸い、そういう「説明できるデザイナーさん」を何人か取材したこともあったし、そういう人と仕事をできることが少なくなかったのだと思う。

一方で、低予算だとか仲間内での(ビジネスベースではない)制作だとかにもたくさん関わっている。そうすると、「デザイナーじゃないけどアプリが使えるから」とか「ちょっとはデザインぽいこともするけど」とか、それで飯は食っているけど理論もなにもなく、自分がなぜそうするのか説明はできないデザイナーさんとか、いやまあ、いろんな人と組むことになる。子どもの学校関係の刷り物だと、自分で紙面を作ることだってある(とてもデザインとは言えないけど)。

そうして気づいてみると、「パッと見」はおしゃれに見えるのだけれども不満が残るデザインなんてものもたくさん目にした。不満の内容はいろいろだ。読み手のことをあまり考えていないとか、印刷のことを考えていないとか、ページをめくることや綴じられることに配慮が少ないとか……(自分が作るものは、そうじゃない。パッと見からしてドンくさい(-_-))。

ぼくが書いたラフ通りに上がって来たデザインは、ぼくはうれしくない。それがうれしい編集者もいることは知っているけど。「いい意味で裏切ってくれる」という言い方をよく聞く(僕自身もよく使う)のだけれど、「予想以上=オーダーをクリアした上でプラスαがある」のがベストなのだ。だって、ぼくはデザインのプロではない。「こんなふうだといいな」という漠然とした思いはあっても、どうすればそれが最も効果的に実現できるかについては、ごく限られた引出ししか持っていない。プロのデザイナーの方がぼくの何百倍も何万倍も引出しの数が多いはずだと思っているのだ。

「いい意味で裏切ってくれる」とうれしいのは、別にデザインについてだけではない。すべてについて、プロと組んで仕事をするときにはそれを期待してしまう。ないものねだりかもしれないけど。あ、もちろん、自分を棚に上げてます。自分はライターとして、あるいは編集者として、プロとしての仕事ができていないこともある。うん。あります。ごめんなさい。

で、棚に上げたまま話を進める。
説明できるデザイナーさんというのは、これまでの経験ではみんな「いい意味で裏切ってくれる」のだ(「いい意味で裏切」ろうとして、絶対に編集者のラフ通りにはしないが、オーダーがクリアされていない……ということだって、世の中にはあるだろうけどさ、幸い、そういうケースは記憶に残っていない。記憶に残らないとか、忘れようとして忘れているだけかもしれんけど)。
もひとつ。いちいち言わない「当然クリアされるであろう」と思っている事柄もいろいろある。「当然」なのだから、これは依頼時にそんなに意識して言語化はしない。例えば仕様と読者層と企画意図を伝えたらクリアしてもらえると思っちゃうことだってあるのだ。もちろん、それとは別に「できればクリアしてくれるといいなあ」だってあるけど、それは意識して言語化して伝えるように、こちらが頑張らねばならないところだと思う。

んで、今回の本に入れ込んだ話は、デザイナーさんたちから学んだことのなかで、オーダーのときに言語化しない辺り、「当然クリアされてるよね」という辺りの事柄だ。ただし「これはこうすべし」にはなってない。「こうすることが多い」とは書いてるところもあるけど。問題のクリアの仕方というのは必ずしも一様ではないのだと僕はデザイナーさんたちから学んだのだ。むしろ、解はひとつだけではない、ということを手を替え品を替え書いてるような部分もあるかもしれない。
この本に「当然クリアされているべきこと」のすべてが入っているとは言えないかもしれない。でも、編集者がデザイナーに「わかっといてほしい」と期待していることは、おおむね入っているはず。
ここ1、2年でデザイン入門みたいな本が、たくさん出た。そういう本の中では、ちょっととっつきにくいかもしれない。「こういうときはこうしとくといい」というところで食い足りないと感じるかもしれない。でも、見栄えがよいかどうかについては、きっとぼくよりもデザインを志すぐらいのみんなの方がいい線をいくよ。見栄え以外ではどこに目配りしとくといいか、そこら辺をこの本から学べると思う。うん。学んでね。

Posted: 火 - 4月 3, 2007 at 04:26 午前            


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