編集者に評判のいいデザイン入門


もうひとつ思い出したので書いておく。
先に刊行された本『Design Basic Book—はじめて学ぶ、デザインの法則』のこと。この本、ぼくは編集者としての仕事はしていない。ライターとして関わったのだ。
ということは、ちゃんと編集者が別にいる。企画からはじめてもろもろの編集作業をしたファーインクの生田さん(共著者でもある。彼が書いたところの方が多いんじゃないかな? 本書ではDTPもやったのかな?)と、版元の松本さんだ。
で、その生田さんから聞いたのだけど、どうもこの本は「編集者に評判がいい」らしい。刊行直後は会う編集者ごとに「あの本はいいね」と言われたとのこと。「この本が新しい仕事にいくつかつながった」とさえ言っとりましたです。

同業者に評判がいいというのは、一般の読者に評判がいいというのとは、また別のうれしさがある。もちろん、ぼくの手柄ではなくて、編集者や共著者の手柄かもしれない。生田さんとはまた別の共著者でデザイナーの大森さんの手柄かもしれない。大森さんは本書のブックデザインを手がけただけでなく、作例をたくさん提供したり探し出したりしてくれているし、直接文章は書いていなかったと思うけれどディスカッションには大いに加わった。なにしろ、ぼく自身の手柄でなくてもうれしいのだ。

で、その話を聞いたときは「それはよかった」と言っただけなんだけど、後になってどういうことなのかしらん、と考えた。

まず、単純にありそうなところから。
a)編集者として、批評的に「売れそうな本、いい本ができたね」という評価
b)こういう本は売れそうだ、真似をしようと思った(苦笑)
c)作った本人に向かって褒めると、1冊タダで手に入ることを期待している(爆)
d)一読者として気に入った、という評価

(a)だったとすると、デザイン・ビギナーに受けそうな本にはなっているということではないか。この場合、「見巧者にほめられた」ってことでいいんだよな、うん。
(b)(c)は考え過ぎだよね。(b)なら作った本人には言わないだろうし、なにより、生田さんは「新しい仕事につながった」と言っているのだから、そんな話ではないよね(^^;)
問題は(d)の場合だ。「ある人(この場合、デザイナーの卵とか、そういう人)が喜ぶ本」と「その人に仕事を頼む人が喜ぶ本」というのは、当然ながら全然違うかもしれないではないか。もちろん、狙いとしてはデザイン・ビギナーに役に立つように図版も選定され、項目も説明も絞り込まれたのだ(だから、ぼくが書いて「難し過ぎる」といって却下されたり書き直された部分も多々あったのだもんね(;_;))。しかし、思惑と出来上がりには一定の乖離があることは、まあ珍しいことではない。「編集者が読みたいデザイン入門」と「デザイン・ビギナーが読みたいデザイン入門」が、本当に同じかどうか、ちょっと不安になるではないか。

というわけで、ちょっと編集者に受けるデザイン入門の要素を考えてみた。
編集者は、デザイナーさんと仕事をすることが多い。だからどうしたらうまくオーダーができるのか、なんてことを考えることが多い。ちょっとしたものなら、自分でなんとかデザインしてしまおうと考える編集者も少なくない。
自分の部下や後進を育てたい、なんてこともある。楽になりたい、自分の仕事を手伝わせたいのである。社内にデザイン部門とか制作部門を抱えている会社もあるから、そういうところの若手に教えたいけれども、うまく言語化できないことなんかもあるだろう。
また、編集者とデザインの距離は、ちょっとデザイナーそのものとは違う。言ってみれば編集者はデザインに関して万年ビギナーみたいなところがあるのだ。プロの仕事をたくさん見ているけれども、自分ではプロではない。仕上がりに不満で、ダメ出しをしようにも、どこがダメなのかがなかなかわからないなんてこともよくあるんじゃないか。
デザイン用語などについて詳しいわけではないし、デザインに関する基本的な教育を受けている人も少ない(これはデザイナーでも同じかな?)ので、専門的なデザイン書では歯が立たないってこともあるかもしれない。

そういったあれこれを踏まえて、編集者がデザインに関して知りたい情報を箇条書きにしてみると、こんなことだろうか。
1)デザイナーと仕事上のやりとりをするために、編集者が自分で最低限知っておきたい情報(自分の向上のために読む)
2)部下や新人のデザイナーさんなんかに知っておいてもらいたい情報(「これを読め」という使い方)
3)編集者=あまりデザインに詳しくない人(まるで知らない人ではない)にわかりやすい情報(事例が多いとか)
4)実際に仕事(本や雑誌づくり、広告づくりなどの過程)に生かせそうな情報(ワークフローや役割分担などに配慮した記述)

ひょっとすると、「プロならこの辺はわかっているはず」というラインを引くための情報、なんていう使い方もしたいのかな。まあ、でも、そんなふうに意識して読む人はいないか。
しかし、上記のような条件をある程度カバーしていれば、編集者に喜ばれそうだ。ってことは、ひょっとすると、本書も上記のような条件の何割かは満たせていたってことかもしれない。(3)や(4)はクリアしていると思うぞ。それならば、デザイン・ビギナーの要求ともそんなに違わないのではないか。うん、十分に役に立つよね。ああ、よかった。

というわけで、改めて。
デザイン・ビギナーにも、編集者にもオススメのデザイン入門書です! お手元に一冊どうぞ(^^)

Posted: 木 - 6月 21, 2007 at 11:32 午前            


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