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2000年版 特別編

お見舞い記念ページ「なそくにしちの帰還

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画像の一部を加工しております。ご了承ください。
ところで、プライバシーポリシーってなんなんでしょうね。

▲患者「な」
▲訪問証拠写真
▲通行人

2000.7.5.

物質化した悪意

去るY2Kの6月、深夜。それは起きた。

時速100km以上のスピードで路面を滑ってゆく巨大な金属塊の質量を、男は制御していた。重量は200kgほどだろうか。しかし、100kmを超える速度で移動する金属塊は、1tにも及ぶ物質化した悪意だ。
そんなものを制御しようというのは正気の沙汰ではない。
しかし、制御しきるしかないのだ。

高速移動中の大排気量バイク転倒。ふつうは一巻の終わりだ。“必死”。
生き残ることを無条件に幸運と呼ぶなら、運が良くても植物人間。重い障害が残ってもまったくおかしくない。そういう種類の事故だ。
横倒しになった車体を離したらどこへ放り出されるかわからない。しかも、ハンドルをつかんだままで車体がもんどりを打ったら、巨大な質量が運転者をミンチにする。究極の選択。

しかし男=「なそくにしち」は生き延びた。

飄然とした帰還

転倒が決定した瞬間から実際に車体が横倒しになる間というのは、いったいコンマ以下なん桁の時間なのだろう。
どこかに激突したら終わりだ。だから、首は常に起きている。その目は周囲をチェックする。下敷きになったらミンチだ、だから足を車体の下にならないように引っ込める。
コンマ以下何秒かの間に、精密な自動機械もかなわない速度と確実さで情報を収集し、体制を整える。プロライダーの熟練なのか、山岳行で鍛えられた超自然的な感覚のたまものか。

車体の滑走が止まると、後続車などにやられないようにすぐさま車体を路肩に引きずって行き、怪我のチェック。胸に痛み、膝から大出血。タオルで膝に応急手当をする。通行人に「すいませんけど救急車を呼んでいただけませんか?」と頼む。
駆けつけた救急隊員に「ショックでちょっと気が遠くなるかも知れません」と“お断り”をしてから救急車に乗り込む。
これ、大事故を起こした男のやることなのか? 原チャリでこけたんとちがうの?

なんにしろ、そんな大事故から生還したのは偉い。生き延びればこそ、九死に一生を得た話もばか話にできるというものだ。

いっぱつお見舞い

事故から4日後、K氏とともにな氏を訪ねた。K氏もバイクに乗る。彼にとっては人ごとではないのだろう。

「な」氏によれば、この事故での怪我は、肋骨が折れたのと膝の皿が露出したほかは軽い擦過傷だけですんだのだという。頭は起こしていたのでまったく打っていない。

肋骨は、車体に上体が当たったとき、胸に入れていたポータブルGPSが折ったのだという。
戦場では胸に下げていたメダルやペンダントが銃弾から兵士の心臓を守るのに、都市の路上では胸のGPSが肋骨を折るのだ、と「な」氏はボヤく(もっとも、これがなかったら単に肋骨を折らなかったという話で済むのかどうかはまったくわからない。こいつのせいで上体が起きて助かったなんていうこともあるのかも知れない)。
膝は軽装が原因だ。この日はバイクに乗る予定ではなかった。だからふつうのジーンズだった。いつもの革のつなぎ(なんというのだ? ライディングスーツ?)なら、足は何ともなかったはずだと「な」氏は主張する。

ところで、こうした「な」氏の一連の発言は、何を言っているのか? 「本当なら無傷だったんだけどなあ」と言っているのか? ふつうは死ぬような大事故で? それとも「この次はもっとうまくやる」か?
あなた、本当はこいつ、何を言いたいのだと思う??
ひょっとして、「生きていられてうれしい」、と言っているのかもしれない。

事故が起きたのはF市とC市の市境だった。病院で手当を受けた後、「な」氏は警察に事故を届けようとする。F市警もC市警も「そこはあっちの管轄だ」……。「な」氏はF市警を説得して、病院からタクシーをとばし事故の届けを出しに行く。
日本の交通事故とはこういうものらしい。患者が自分で全ての手続きをして、誰もそれを助けない。「大丈夫か?」とは聞かれても、「パトカーで送ろうか」とは言われなかったという。
いや、特殊ケースかも知れないけど。なにしろ患者がしっかりしすぎていたとかね(笑)

事故がうれしい?

しかし、どうしてバイク乗りはあんなに喜々として事故の話を語り合うのだろう。パソコンのトホホ話と違うんだぞ。事故だぞ。死にかけたんだぞ。わかってんのか、んとにもう(教えてもらうまで、そんな大変な事故だと知らなかったのは私の方ですけど……)。

事故に遭った「な」氏はもちろん、見舞いに行ったK氏まで、まるで滅多にお目にかかれない名車をあろうことか手に入れたのだ、と報告するかのように話をする。バイク乗りのメンタリティというのはわからん。
「とっておき、最高にいい話があるんだけど」というときの目の輝きだぞ、あれは。
後日会った別のバイク乗りも、「な」氏とともにそれはうれしそうに事故の話をしていた……。戦友の感覚?
病院の待合い室で聞かされる、老人の病気自慢のようなものかも知れない。

帰路、K氏と串焼屋に行く。うまかった。しかし、店を出たところで、変な通行人にあった。土地の名物男といってもいいかもしれない。ひょっとすると、「な」氏の正体が何者なのかを語るために、彼はわたしたちふたりを待っていたのではないだろうか。
それとも「××ポスト」に投稿してくれって言うことだったのかな。

事故からひと月近くを経た今、「もう傷はくっついてるんだ」と言いながら「な」氏はスポーツジジムに通い始めた。ときどき、「イテエ」と顔をしかめることがある。うれしそうに。

付記:
某ツーリング系サイトのコラムに、彼が事故を起こした翌日書いた文章が出ている。添えられている写真は、肩の部分がずたずたになったベストと、血まみれのジーンズだ。
悪趣味……(って、人のことは言えないね(^^ゞ)。


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